0.5ミリ(安藤桃子監督2014年作品)
「お互いにちょっとだけ目に見えない距離を歩み寄れば
心で理解できることってあるよね。」(・∀・)
(「0.5ミリ」から山岸サワの言葉 )
あらすじ
地方都市の介護ヘルパー山岸サワ(安藤サクラ)は、介護派遣会社の独身寮で生活をしている。
寝たきり高齢者片岡昭三(織本順吉)の介護をしていた際、出戻りの娘雪子(木内みどり)から「冥途の土産として、一晩だけ添い寝をしてやってくれないか」と懇願される。昭三は亡き妻を恋しがっているという。現代っ子のサワは、お金目当てでバレたらクビになるので内緒にしてくれと承知した。ところがその晩、昭三は興奮して石油ストーブに触れて火事を起こす。おまけに雪子は自殺して警察沙汰となり、職場と寮を出されてしまう。
街をさまよっているとカラオケ店で、泊めてくれと頼んでいる高齢者康夫(井上竜夫)を見付ける。それを見てサワは、康夫を強引にカラオケボックスに連れて行く。戸惑っている康夫に対し、明るく振る舞いはしゃいで見せた。康夫もそのうち喜んで歌を唄いご機嫌になってしまう。疲れた二人はその後、仮眠をとり朝になった。康夫は息子夫婦に反発してプチ家出したのだと言う。別れ際、そっとサワの手にお金を渡し、来ていた外套を着せてくれた。
サワは自転車置き場でバンク魔をしている石黒茂(坂田利夫)を見かけたので警察にチクると脅かし、その家に住みつく。石黒は娘夫婦に相手にされず、一人暮らししていた。そんな石黒が自転車ドロの常習犯と分かり、サワは盗んだ自転車をすべて返させる。またお金はあるようで、友人と称する斎藤(ベンガル)の詐欺に遭いそうなのだ。それを知りサワは、斎藤の詐欺行為を暴いて助ける。そんな石黒は、帰るべきところに帰ると言って自分の車をサワに運転させ老人ホームに戻って行き、その車をサワに与えた。
車を貰ったサワは百貨店に行く。そこでサワは、エロ本を万引きした高齢教師真壁義男(津川雅彦)にバラされたくなかったら家に連れて行けと脅して住み込む。真壁家には、義男の妻静江(草笛光子)が寝たきりでいて、週何回か浜田(角替和枝)というヘルパーが介護している。サワは義男の教え子で恩返しとして無給で賄いをするという触れ込みにした。静江はサワの扱いが手馴れているので気入ったようだ。義男は若い女性に関心はあるが、教師として気持ちをぐっと抑えている。
しばらくして義男も認知症になったようで、サワのことを編集者と勘違いして、自身の戦争体験をくどくどと語る。戦争は馬鹿げている、死んだ人は気の毒だ。生きて帰ったのは申し訳ないとな涙さえ浮かべる。そんなところへ真壁夫妻の姪っ子久子(浅田美代子)が訪ねて来て、これからは自分が二人の面倒を見ると住み込むこととなった。そんな状態になるとサワは、居る必要が無くなったと感じで、真壁家を立ち去ることにした。
車で走っていると以前、添い寝を頼まれて火災になった片岡家の息子マコト(土屋希望)が駄菓子屋で無銭飲食しているのを見かける。母親が自殺したため、生まれる前に離婚している父親の佐々木健(柄本明)の家に転がり込んでいたのだ。マコトは口をきかずメモ用紙に筆談でそのことを知らせた。サワはマコトに同行して、住み込んでいいか父親に頼むと家事をやってくれれば泊まっていいと承諾した。
マコトは片岡家から大量の自分の本を持ち込んだ。口をきかず、学校には行かず、日中はぶらぶらしているだけのようだ。健は以前、海の家をやっていたが、廃業してしまい今は対岸の造船所で日雇いをしている。家の中はゴミ屋敷のように荒れ果てている。健は酔うとマコトに金を稼げと叱る。そんな諍いの日、マコトは家を飛び出した。それを必死で追うサワ。
追いついたとき、サワはマコトが男の子でなく女の子だと気づく。車のトランクに片岡家の紙袋を思い出した。中にはピンクのワンピースが入っていた。そしてトランクには、黒田茂がくれた100万円も入っていた。サワはゴミ屋敷に戻ると健に別れを告げて、着替えたマコトを連れてどこかへ旅立った。
感想など
介護ヘルパー会社をクビになり、行くところがないので、押しかけ女房ならぬ押しかけヘルパーになる。さまざまな高齢者と出会い、持ち前の図々しさと明るさで甲斐甲斐しく面倒することを厭わない。扱い方が上手ですぐに高齢者と親しくなれる。そんな出会いと別れをオムニバス的に見せてくれる。高齢者の介護問題を考えるというよりもそれを題材にしたエンターテイメントとして見る作品。
のっけからショッキングな展開である。ある意味、介護の領域を逸脱した狂気の沙汰の展開だ。ただ、こんな過激な修羅場場面と安藤サクラの可愛らしさが醸し出す不思議な雰囲気はむしろ可笑しさ漂わせてしまうので面白い。高齢者が「冥途の土産」の添い寝を望んだり、自転車ドロやパンク魔をやったり、エロ本を万引きしたりを多くの高齢者がやるわけでないし、主人公のような押しかけヘルパーが何人もいるとは誰もが信じないだろう。
「0.5ミリ」とは、戦争体験のある高齢者が主人公にテープで語りかけた中に「人と人の心を動かすのは0.5ミリかもしれないが、その数ミリが集結し同じ方向に動くと革命ははじまる」を聞いて主人公が、マコトという少女(少年)に「お互いにちょっとだけ目に見えない距離を歩み寄れば心で理解できることってあるよね。」と語りかけるところで引用する。
トランプ大統領の言う国境の壁は、国を分断して関係を絶とうと言う発想だ。いろいろな壁は無数にある。人種の壁、障碍者の壁、男女の壁、思想・宗教の壁などなど。壁の厚さは様々だろう。作者や監督が言いたいのは、お互いが0.5ミリでも近寄れば、いくらかでも越えられる可能性を持っていると言うことだろう。だから主人公は、助けを求める者に献身的に奉仕しようとしたのかもしれない。ただ、見方を変えれば、0.001
ミリであっても壁は壁で突き破ることは不可能だと言う論法もある。主人公は前者の考え方を貫いているところがポジティブで素晴らしい。(⌒∇⌒)
GALLREY