ギャラさん映画散歩

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スモーク(ウェイン・ワン監督1995年作品)

    「嘘を付いて物を盗んでいいことをしたのか?」
    「君はいいことをした。彼女を幸せにした。素晴らしい話だ。」
        (「スモーク」からオーギーとポールの会話より)
あらすじ
ブルックリンの街角で煙草屋を営むオーギー(ハーヴェイ・カイテル)は、毎日同じ場所、同じ時刻で写真を撮影している。もう4千枚も溜まりアルバムにしている。一枚づつ同じ場所だが、気候、天気、太陽光線、通行人や車両など違いがあって全部が異なっているし、撮ることは一生の仕事だと思っている。

 

 煙草屋の常連客ポール(イリアム・ハート)は、小説家だが数年前に銀行強盗の巻き添えで、妻のエレンを失った。妻は妊娠中だったため、ポールのショックは大きく、その後小説を書く気力が失われ立ち直れなかった。そんなポールが、オーギーのアルバムに亡き妻の写真を見付け、むせび泣いた。

 

 ポールが道を横切ろうとしたときトラックが来てぶつかりそうになり、黒人の少年(ハロルド・ペリノ―)に助けられた。その少年が二晩ほどポールの家に泊まり出て行った。二日後に少年の叔母と名乗る女性が訪ねて来て、自分は育ての親でその少年を探していたがポールは行方を知らない。少年の母親は死に父親は蒸発したのだと言う。

 

 少年はトーマスという。実は蒸発の父親サイラス(フォレスト・ウィトカー)が郊外で給油所をやり始めたことを知っていたので訪ね雇われていた。サイラスはトーマスが息子だとは知らなかった。サイラスは12年前に自動車事故でトーマスの母親を死なせていたのだ。その報いで義手になったと悔いている。今は別の妻とこどもがいる。

 

 オーギーの店に18年前に別れた元婚約者ルビー(スットカード・チャニング)が訪ねて来た。ルビーはオーギーが戦争で死んだと思い別の男と結婚したのだ。ただ、オーギーとの娘を身籠っていた。その娘フェリティが現在18歳で、ドラック中毒になりスラムに住んでいるので金銭的に助けてほしいと懇願したのだ。オーギーはルビーの懇願を断った。しかし、ルビーは無理やりにオーギーをフェリティに会わせたが、追い帰される。

 

 トーマスは給油所からポールの家に移った。17歳になったトーマスは今まで生きられたことを祝いたいというので書店員を誘ってバーに行き3人で祝っているとオーギーが来たので、トーマスを雇ってくれと頼む。帰宅するとトーマスは強盗をした友人が落とした4千ドルを拾って所持していることがバレた。

 

 トーマスは、オーギーの店で働くことになった。オーギーが留守の時、トーマスは水道の栓を閉め忘れ、下にあった商品を台無しにしてしまう。その弁償にトーマスは拾った金をポールの仲介で渡した。オーギーはその金をフェリティの更生資金としてルビーに渡し感謝される。トーマスの強盗の友人がポールに対して脅迫したので、トーマスは警察を呼び、サイラスの給油所に戻ってしまった。脅迫され負傷したポールは、オーギーと共にサイラスの給油所を訪ねる。そしてトーマスに本名を名乗れと促す。トーマスが名乗るとサイラスは、嘘だと怒ってトーマスを殴った。それを止めるポールとオーギーと妻。

 

 ポールはNYタイムズからクリスマスの記事を書いてくれと頼まれた。イデアが欲しいとオーギーに相談すると思い出話をしてくれた。1976年の夏、店番をしていると少年がポルノ雑誌を万引きした。追いかけると財布を落として逃げた。財布には免許証と写真が入っていた。クリスマスの日、オーギーは思い出してその財布を返しにアパートを訪ねる。出て来たのは盲目の老婆で、オーギーを孫と間違えた。オーギーは調子を合わせてアパートに入り一緒にクリスマスを祝った。帰り際、仕舞ってあった新品のカメラを盗んで帰ってしまったのだ。そのカメラが今使っているカメラだと言う。話を聞いたポールは「カメラを盗んだのは許せないが、彼女を幸せにしたのは良い事だ」と述べて、NYタイムズのクリスマス特集にふさわしい物語にしたいとオーギーに感謝した。

 

 感想など
ニューヨークのブルックリンにある煙草屋の店主とその常連客の小説家の交流。小説家と不幸な黒人少年の出会いと交流。店主と別れた前妻や娘との出会いと苦渋。黒人少年の生き別れになっている実父との出会いや悲しみそれらの話が淡々と、挿話形式で次々と展開してゆく。そしてラストの店主の思い出の挿話が語る「嘘も方便」で締めくくる。

 

 とにかく登場人物は、やたらとタバコを吹かしている。タバコが有害だと認識していない時代のせいか、また登場人物に煙草屋がいるためか、タバコはこの映画のこの物語を淡々と穏やかに優しく包み込む小道具としての役割を果たすが、映画を見る者は煙に巻かれてしまう。現代のタバコ弊害社会から見ると「そんなに吸わないでくれよ」と思いながらのなにか気持ちがほんわかとしてくる作品だった。

 

 登場人物は、みんな傷付いた過去を持っている、それらの人達が人と人の交流の中で、見つめ合い、癒し合い、慰め合い、本来の自己を取り戻し、共に生きて行こうと言う姿勢に満ちているのだ。それぞれの会話に含蓄とダジャレでないユーモアがある。また、たとえ話がいくつも出てくる。タバコの煙の重さの量り方。黒人少年を実子だと気づかずに過去を悔い恥じている給油所の店主。スキーヤーが氷づけされた父親の死体を見付けた時の話など。締めは、店主が拾った財布を届けに行って、老婆から孫と間違えられ、調子を合わせてカメラを盗む挿話には考えさせられるものがある。

 

 登場人物は相手に対する穏やかな優しさに溢れている。口では「クズ野郎」「ゲスで愚かでクズ」「嘘だ、からかうな」「クソガキ」「クソ野郎」と相手を貶しながら真逆の気持ちを持って相手を温かく見詰め手を差し伸べて援助しているところが素晴らしいのだ。煙草屋店主の思い出話に小説家が言う「盗んだことは許せないが、彼女を幸せにした。素晴らしい話だ」と肯定する。「秘密を分かち合えないのは友達ではない。それが生きている価値だ」と更に続けて言う。

 

GALLERY
 
煙草屋店主と常連客ポール     タイトル 
 
ポールはトーマスに助けられる       写真に泣くポール 
ポールの亡き妻が映っていたの     ポール宅にトーマスの叔母が探しに来た 
オーギーの前妻がお金の無心         トーマスは実父の給油所で雇ってもらう 
トーマスはポール家にテレビを持ってきた オーギーは娘に追い帰えされる
 
トーマスは友人(泥棒)の金を持っオーギーの店の損害金にその金を充当した 
トーマスはオーギ                   オーギーはルビーに娘の更生のため金を渡す 
サイラスにトーマスは実子であ サイラスもトーマスのことを受け入れる 
ポールはオーギーに小説の 盲目の老婆との出来事に感動するポール 
老婆はオーギーを孫と オーギーは在ったカメラを盗ってしまう