ギャラさん映画散歩

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ゲゲゲの女房(鈴木卓爾監督2010年作品)

                           「貧乏は平気です。命までは取られませんから・・」

                            (「ゲゲゲの女房」からの茂の言葉 )

あらすじ

鳥取県安来にある酒屋の娘飯塚布枝(吹石一恵)は、周囲の男性より背丈が高く縁遠いため29歳になった。そんな布枝に見合い話が来た。お相手は10歳年上の戦争で左腕を失い、現在は貸本漫画を描き生活は安定しているという。住まいは東京だが鳥取に来るというので会って5日後に米子で式を挙げた。

 

そして東京へ。東京には姉田所初枝(坂井真紀)がいたので一緒に武良茂(宮藤官九郎)の家に連れていかれた。木造二階建ての古い家。着くと茂はすぐに「仕事があります」別室へ行う。姉もすぐ帰った。台所にいると突然みつぼらしい男がポットに水を入れて行く。米櫃が空なので茂に聞くと「二階は貸しています」蓄音機を持って家を出てゆく。そのあと米屋の御用聞きが来て「つけを払って」と言いながら米を置き判をくれという。引き出しには質札ばかり。そんな茂は質屋から自転車を出して持ってきたのだ。

 

布枝は武良家が極貧であることを知る。軍人恩給は田舎の両親に渡しているという。今回の原稿料も値切られて5000円にされたと茂は憤慨する。二階の間借り人は家賃を払わない。布枝は茂から仕上げを手伝ってほしいと言われ、次の原稿に線や着色をする。「これを新宿の出版社を持って行けば30000円になる。値切られないように」と布枝は頼まれた。出版社の社長は「水木さんの本は売れず返本ばかり」と渋々15000円だした。帰ると茂は布枝に「よく半分も出した」とほめた。

 

姉の初枝が様子を見に来て、「うちへきて泊まれば」というので姉宅から電報を打った。電報を見た茂は布枝に愛想尽かしされたと思い翌日、布枝を出迎えに行く。その際に妊娠を打ち明けられる。子育ては大変だという茂に布枝はなんとかなると生む決心を告げた。そんな中、講談社佐久間(柄本佑)という編集者が自宅を訪れた。少年マガジン」読み切りを書いてほしい。ただ、宇宙時代のセンスを生かしてほしいという。それを聞いた茂は苦手の分野は書けないと断った

 

いい話を断ったため布枝はがっかりする。折も折、税務署が来て申告が少なすぎるのではないかと調査に来た。茂は「貧乏は平気です。命まで取られませんから・・」と質札を取り出して署員に見せた。そして「お前らに俺らの生活が分かるか」と怒鳴りつけると署員はすごすごと立ち去った。

 

後日、講談社の佐久間が改めて訪問しに来た。編集方針が変わったので、「少年マガジン」の読み切り32ページ分に水木さんの好きなものを書いてくださいというのだ。茂と布枝は、ほっとした。貸本漫画の10倍の原稿料がもらえるのだ。茂や布枝の周りにうごめいていた妖怪たちもいっせいに踊りだしたようだ。

 

感想など

妖怪漫画の巨匠水木しげるの妻による不遇時代の回想録である。紙芝居作者から貸本漫画作者になるが、貸本漫画が月刊誌や週刊誌に押されて下火となる。また内容が暗く妖怪物は時流に乗れず、妖怪物にこだわる水木漫画は注文がこなかった。にもかかわらず、辛苦に耐え続けている水木を支え続けた妻の奮闘記でもある。

 

茂は39歳。布枝は29歳で見合い結婚した。当時としては婚期ぎりぎりであり、お互いが好きになったという恋愛関係ではない。だから当初の新婚生活は、極貧であり、ぎこちなく楽しさも希望に満たところがない。茂は生活は安定していると嘘を付き、布枝に対して愛情があるとも思えない態度だ。布枝の当惑と落胆は何のための結婚かと映画を観るものは感じる。ただ、段々と茂が布枝という伴侶を必要としていることが分かってくるし布枝が茂を支えたいと思うことが分かってくる。

 

やはり、漫画家家族を描いているため随所に漫画的な場面をちりばめている。茂は義手を付けて結婚式に臨んだが、帰宅後は義手を仕舞っておけと放り出す。電気を止められて蝋燭の明りで作業する際に老婆の妖怪が見えたり、バナナを食べるシーンでは、バナナの妖怪がちらつく。出版社社長が見せる返本の山と借金取り立てのシーンではドタバタというより悲哀を感じさせる。よくわからないが、鳥取地方の妖怪伝説の妖怪たちなのか、ことあるごとに二人の周辺に出てきて、眺めたり、踊ったりしている。

 

武良茂(水木しげる)の人物像は、見た目風変わりであり、舌足らずの言葉遣いりせいか得体が知れないという感じである。戦争で生死の境をさまよい、幸いにして生き残ってしまった。戦友の死に対して後ろめたさを感じると同時に戦争への憎悪を持っている。戦友たちの亡霊や妖怪が、水木しげるの漫画の主題にならざるを得なかったのだろうか。

 

ただ、茂の妖怪漫画に人生を一途に賭けている様子は、生きがいであり、夢であり、妖怪漫画で成功することが、妻への愛情であり、感謝であり、人間愛であり戦争で死んだ同胞への追悼であり、平和への希求であることが伝わってくる。お金になることは分かっていても、自分が書けない宇宙時代の漫画を引き受けることに断固拒否する信念があるのが清々しい。私は漫画そのものは、さほど好きではないが、水木しげるという漫画家は好きになれそうである。

 

ギャラリー

 

布枝に縁談が來る                  漫画家武良茂と結婚

 

武良家に来る                    茂はさっさと仕事に精を出す

 

武良家は貧乏らしい                茂の漫画は妖怪だった

 

貸本屋は茂の漫画は暗く人気がないという  出版社では原稿料を値切られる

 

製作を手伝う布枝 (電気を止められる)     家にも妖怪がいそうな雰囲気

 

姉の家に泊まると迎えに来た夫         妊娠を告げられる

 

宇宙の漫画を注文されたが断る         布枝は絶望を感じる

 

妖怪に力づけられる布枝             無事出産

 

税務署に質札を見せる茂             講談社から再度注文が來る

 

妖怪たちも祝福しているようだ           原稿を届けに行く茂