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アラビアのロレンス(デーヴィット・リーン監督1962年作品)

              戦いの美徳は、若者の美徳だ。
             そして平和は老人が請負う
               ロレンスは両刃の剣で、もう厄介者なのだ。
          (「アラビアのロレンス」からファイサル王子の言葉)
 
   
  シナイ半島、ダマスカス              T.E.ロレンス実像
 
あらすじ
1916年、英国陸軍のカイロ司令部では、軍規違反の常習者であるT.E.ロレンス中尉(ピーター・オトゥール)にアラブの戦況調査へ行くよう極秘命令を下した。
当時、アラブはオスマントルコの支配に対して反乱を起こして対抗していたが、その中心人物は、ベドウィン族の首長ファイサル王子(アレック・ギネス)であり、エンボで指揮をとっていた。 
ロレンスが、エンボへ出向く途中、ハリト族の首長アリ(オマー・シャリフ)と出会い、案内人を殺される。
 
そのため、単独でファサイル王子の居場所を探すのだが、連絡将校のブライトン大佐(アンソニー・クエイル)が、出迎えてくれたので、王子が居たワジ・サフラに着く。ワジ・サフラでロレンスは王子と会えたが、そこにはハリト族の首長アリも居り、再び会うことになったのだが、突然トルコ軍の飛行機爆撃を受けて近代兵器のすざましさにたじろいでしまう。
 
ブライトン大佐は、ワジ・サフラでは戦況不利と見て、エンボへ退却し英国陸軍の援助を得た方がよいと主張した。しかし、王子は退却すれば英国の支配にさせられるという危惧を持ち決断しかねていた
そんな様子を知ったロレンスは、ゲリラ隊を組織して、ネフド砂漠を横断し、アカバ港を攻め取る作戦を王子に進言した。ネフド砂漠を横断することは、正気のさたではないが、難所を過ぎれば近くにいるハウェイタット族と合流でき、アカバ港にいるトルコ軍を背後から攻撃できるとロレンスは断言する。そんな計画にハリト族の首長アリは協力することにした。
 
ロレンス中尉は、50人の兵と共に、灼熱のネフド砂漠を横断し始めた。途中ロレンスがハリト族の兵士の一人を救出したことが、首長アリの深い信頼を獲得することになり、アリから「偉大なる人間は、自分で運命を切り開く」と賞賛されベニ・ウェジの首長のアラブ服を与えられる。ロレンスは英国陸軍の軍服をアラビア服に着替えて、なおも進軍した。
 
難所を越えた地点で、ハウェイタット族の首長アウダ(アンソニー・クイン)と出会い、ハウェイタット族の居住地ワジ・ラムに招待され、食事を提供してもらう。ロレンスはアウダに対し、アカバ港の攻撃に加わるよう頼むが、アウダはトルコから貰う金貨と比較して渋るのだが、トルコ側の金庫にたくさんの金貨があると聞かされ、それを獲得できることを条件に協力を承知する。
 
そしてロレンスの指揮で、ハリト族とハウェイタット族の連合軍は、アカバ港にいるトルコ軍を背後から攻撃して、アラブ軍はアカバ港を奪還する。そんな輝かしい戦勝をロレンスは、カイロの司令部へ行き報告する。新しい司令官のアレンビー将軍(ジャック・ホーキンス)は、ロレンスを少佐へ昇格させ、再び任地へ戻ることを命令する。
 
アカバ港へ戻ったロレンスは、アラブの英雄として、再びゲリラ活動に邁進して、トルコ側の鉄道列車を爆破させ物資を奪うなど華々しい活動に従事した。そんなロレンスをアメリカの新聞記者J.E.ベントリーが取材に来て質問する。
Q アラブはこの戦争で何を得たがっているのですか。
A 自由を望んでいる。必ず手に入れる。私が与える
Q 砂漠の何に魅せられるのか。
A 清潔さだ。
Q 奥の深い答えだ。
 
そしてなおもロレンスは、司令官の要請で、北方のデアラを一気に攻撃したいとアリに言うのだが、アリはハウェイタット族は気まぐれだ、部下を大事にしろと断る。ロレンスは一人でも行くと言い出し、やむを得ず、アリはロレンスと二人でデアラの町へ侵入したが、トルコ兵に捕まってしまう。アリは逃げたが、ロレンスはトルコの司令官の取調べを受ける。司令官はロレンスが白人なので、脱走兵と勘違いして、拷問をさせたうえ追放してしまう。
 
アカバ港へ戻ったロレンスは、アリに対して「私はもう終わりだ。人間は何にでもなれると思っていたが、私には思い上がりがあった。この肌の色までは変えられない。普通の人間だ。もう楽な仕事に変わりたい。」とアラブを去る決心をする。
 
そしてカイロの陸軍司令部へ戻ったロレンスは、アレンビリー将軍に転属を願い出たが、将軍からから英国とフランスが、アラブとトルコの土地を二分割するサイクス・ピコット条約を締結したことを聞かされ愕然とする。将軍は、来月16日に英軍は、ダマスカスを総攻撃するからロレンスも活躍してくれと命令を下した。それを聞いたロレンスは、英軍より先にアラブ軍がダマスカスを占拠しないと英国に支配を許してしまうと感じ、アラブ軍を先にダマスカスへ入れようとアラブの兵隊をかき集めようとアカバへ戻る。
 
ロレンスは、アラブ各地から金にまかせて無頼漢のような兵士を含め2000人をかき集めた。そしてダマスカスに向かい、途中も集落を襲ったトルコ兵を全員皆殺しにして進軍した。新聞記者は「汚れた英雄だ。汚れた顔を汚れた新聞に載せてやる」とロレンスの写真を撮った。
ロレンスは神に獲りつかれた様にダマスカスに入り、トルコ兵を殺戮し占拠する。そして市役所に「国民会議」なるものを設置し、アラブ各地の部族を集め話し合いをさせようとしたが、部族間には争いが起こり、なにも纏まらなかった。
 
ダマスカスの病院では、トルコ兵の重傷者が治療も受けられず悲惨な状況でいた。軍医はアラブ服のロレンスを罵倒した。そんな状態の中でハウェイタット族などは引揚げてしまう。ダマスカスは結局、アラブの旗の下で英国が運営してゆくことになった。
 
カイロへ戻ったロレンスは、司令官から大佐への昇格を告げられる。やがてシリアの支配者となるファイサル王子は、司令官にこう話す。
戦士の仕事は終わった。取引は老人の仕事だ。若者は戦い、戦いの美徳は若者の美徳だ。勇気やら未来の希望に燃えて。そして平和は老人が請負うが、平和の悪は老人の悪であり、必然に相互不信と警戒心を生む。ロレンスは両刃の剣です。今となっては両方に厄介者なのだ
 
英国本土に帰ったロレンスは後日、オートバイ事故で死去する。享年46歳。(冒頭の場面)
 
感想など
 
* 当時、オスマントルコの支配に対抗してアラブ民族を指揮して戦った一英国将校  の栄光と挫折の物語でした。
 
* 政治は利害を調整するのが役割ですが、軍事は侵略者を排除するのが役割で   す。また戦争は手段であって目的ではありません。おのずと戦争の英雄には、その役割に限界があるということなのでしょう。
 
* 英国人でありながらアラブ人の信頼を集め、アラブの服を貰い、アラブ人のため  役立とうと決意し、運命も変えられると思うほどの自信を得ても、結局肌の色は   変えられず、運命を変えられなかった挫折をロレンスは味わいました。
 
* アラブの砂漠は、灼熱で過酷な世界です。そんな大自然を背景に繰り広げられた  壮大な人間ドラマと戦闘場面は、日常の世界を忘れさせます。
  ロレンスに対する評価は、様々です。詩人・哲学者・偉大な戦士など。また、恥知  らず・自己宣伝家などと・・。
  たしかに挫折から自分を普通の人間だと反省するような内面の脆さや自己統制  力の希薄さなどが英雄らしからぬ姿を見せています。
 
* ファイサル王子が最後に言った言葉が、この映画のテーマだと思います。「戦士   の仕事は終わった。取引は老人の仕事だ。戦いの美徳は若者の美徳だ。ロレンスは両刃の剣です。今となっては、両方の厄介者だ
  アラブにとっても政治にとっても汚れた英雄厄介者にされてしまうのです
 
* 1962年度、アカデミー賞の作品・監督・撮影・美術・音楽・編集・作曲各賞を受賞した作品です。
  なお、T.E.ロレンスは実在した人物です。
 GALLERY
  
 アラブ派遣命令が下る          ファイサル王子を訪ねるロレンス  
ファイサル王子に出会う            アカバ港攻略へネフド砂漠を横断 
  アリからアラブ服を貰う            アウダ首長と出会う  
 アカバ港を攻めるアラブ軍           アカバ港の大砲は海を向いている  
 司令部へ占領を報告するロレンス      トルコの鉄道を爆破するアラブ  
自信に満ちたロレンス                 ダマスカスへ進軍           
    
 ダマスカスを攻略             アラブ国民会議を開催  
 ダマスカスの病院で軍医に殴られる       ファイサル王子と対話 
  ダマスカス解放の新聞記事              本国へ帰るロレンス