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万引き家族(是枝裕和監督2018年作品)

            「僕、わざと捕まったんだ。」

               (「万引き家族」から翔太の言葉 )

あらすじ

東京の下町にあるボロ家屋に柴田初枝(樹木希林)は、息子治(リリー・フランキー)と妻信代(安藤サクラ)と孫翔太(城桧吏)、そして信代の妹亜紀(松岡茉優)と5人で暮らしている。ただ、公には初代が独居老人として暮していることになっているので、民生委員が来るとみんなを外出させる。

 

初代には年金(実態は慰謝料?)月6万円の収入がある。治は日雇い作業員で、信代はクリーニング工場のパートだ。収入が少ないので、治は翔太と一緒にスーパーなどで日用品などの万引きで収入を補っている。亜紀は風俗で働いている。翔太は「家で勉強が出来ない奴が学校に行っている」という理屈で学校には籍がない。

 

ある日、治と翔太が万引きの帰り道、団地の外廊下にたたずんでいる「ゆり」と名乗る5歳の女の子を連れて帰る。信代は帰せと団地に戻そうとしたが、部屋から「生みたくて産んだ子じゃない」と母親らしい声が聞こえたので、二人は不憫に思い柴田家で一緒に暮らすことにした。実は翔太も治が車上荒らしをしていた時、空腹で車の中にいたとき、治が連れて来たのだった。

 

翔太はゆりと一緒に雑貨屋で万引きした。その日、治は工事現場で右足の骨に皹が入るケガをした。一ヶ月は働けず労災は下りない。収入のない治は、釣具店で高級な釣竿を翔太とゆりの3人で万引きした。翔太はゆりを使うことに躊躇していたが、治は「ゆりだって、家の役にたちたいだろう」と翔太を納得させる。

 

そんな中、テレビで5歳の少女が二か月も行方不明になっているとゆりの動画が放映された。両親は捜索願も出しておらず、警察の取り調べを受けているとのことだった。治は連れて帰るかと言うが、信代は帰さないで、自分の娘にしたいと言う。翔太も妹にしたいと言い、バレないように髪の毛を切って、家族にすることと決めた。今後は「りん」と名前を変えることにした。

 

信代はクリーニング工場をクビになる。同僚がりんのことを嗅ぎつけていたため脅迫された。初代は、夫の後妻の息子夫婦から慰謝料を貰っていた。命日には押しかけて仏壇を拝み3万円をせしめる。その息子夫婦の長女が亜紀だった。柴田家は、6人家族となり、和気藹々と仲良く暮らすことが出来た。夏には海水浴へ出かけ楽しんだ。

 

だが、初枝の急死した。治と信代は初枝の始末に困り、敷地内に埋めた。家族には最初から初枝がいなかったことにしようと申し合わせる。初枝は預金とヘソクリを残していたため、治と信代は喜んだ。そんな二人を翔太は複雑に見詰めた。翌日、翔太はりんと共にスーパーに行き、翔太は万引きしようとした。りんにはさせないつもりだったが、りんが独断で万引きしよてしたため、翔太はりんを庇うため、大袈裟に盗って外へ逃げた。追う店員に捕まりかけた時、とっさに陸橋から飛び降りてケガをする。

 

翔太が緊急入院したため、警察が治と信代を呼び出した。治と信代は警察を恐れていたのだった。翔太・りん・亜紀を柴田家に残して逃走するところを逮捕された。翔太とりんは児童福祉司からいろいろと聞かれる。そして、治と信代は本名があり、痴情のもつれから信代の前夫を刺殺して埋めた犯人で前科者だったのだ。亜紀は初枝が実の両親から慰謝料を取っていたことを警察から知らされる。

 

治と信代は柴田家にこども等と亜紀を残して逃走するつもりだったが、警察が二人を捕まえてしまう。そして柴田初枝の死体遺棄が判明。死体遺棄については信代が一人でやったと供述し、刑に服することとなる。治は無罪となり、別のアパートに一人住むこととなる。

翔太は児童養護施設に入り、学校に通うこととなった。りんは両親の元に帰された。

 

刑務所で治と翔太は信代と面会した。信代はみんなで柴田家で暮らしたことは楽しかったと言う。そして翔太に連れて来た場所と車の車種を教え、親を探したければ探せることを教える。面会後、二人は治のアパートに行き一泊した。別れ際、もう会えないと治は言う。

最後に翔太は「僕はわざと捕まったんだ」と告白し二人は別れる。

 

感想など

疑似家族(他人同士が家族として暮すもの)の、家庭崩壊の話である。映画は当初、家族のような団らんもあり、みんなが疑似家族だとは分からない。しかし、話が進行するにつれて、徐々に他人の集まりであり、全員が赤の他人であり、みんなしたたか者であることに唖然となる。「店の商品は誰のものでもない」という破天荒の理論をもつ治は、翔太と組んで日々万引きをして暮らしている。初代はパチンコ店で他人の出玉箱をこっそり盗んでしゃあしゃあとしている。信代はクリーニング工場で、衣服に会った貴金属をネコ婆する。

 

最後まで映画を見ないと彼らの過去と正体が分からない。下町のボロ家屋に住む独居老人柴田初枝は、前夫に捨てられた。別の女と一緒になり息子も出来た。その前夫からは慰謝料を取って暮していたが前夫の死後は、その息子の成人した娘を同居させ慰謝料を継続的にもらっていた。そんな中に痴情の果て、夫殺しの前科者治と信代と同居。治は車上荒らしの際、車で腹を空かせていた翔太を連れて来る。また、虐待でいる場のないりんを連れて来た。柴田家は、そんなどこへも行き場のない人達の疑似家族だったというもの

 

彼等は、「罪を憎んで人を憎まず」「盗人にも三分の理」などの格言とは一線を画している。何故なら彼等は「万引き家族」であり「犯罪家族」であり、ずる賢い打算だ。いわば社会のアウトローであり、個人としては生きられず寄っかかり合う、互助の集まりである。そんな彼らの目指すものはなんだったのか。社会から疎外され、また家族と言う集団からも疎外された人間だが、社会で生き抜く手段を求めた。

 

私生活は家族によって構成される。個人に個人がバラバラであれば、自由気ままであるが、個人だけでは生きられない弱い人間はたくさん存在する。人は家族から生まれた。例外はあるが、心の絆、ギブ&テイクの打算、お世話しお世話されるお互いの助け合い、ちょっとした言い争いする息抜き、育て育てられる使命感などなど、身近な家族がいると心強い。

 

柴田初枝の死から疑似家族に変化が始まる。初枝の預金やヘソクリに歓喜する治と信代。それを見ていた翔太は、りんに万引きをさせないため、ワザと捕まってしまう。逃げて負傷して救急搬送され、そこから柴田家の内幕が全て洗いざらい警察にバレてしまう。信代は死体遺棄の罪を背負って刑務所に入る。そのことによって翔太は児童養護施設。りんは両親の元にり、その疑似家族は崩壊してしまう。

 

半世紀前に小津安二郎監督が、家族の崩壊をいろいろと描いて見せてくれた。まるでバブルのように新しい家族ができて、崩壊して消えていく。我々はそれを実感して生きている。

この映画の柴田家が、疑似家族を作り上げ、当然普通の家族とは違ったかたちで崩壊する。それは一時の幻想と必然の結果であった。

 

疑似家族を広くとらえると「養護施設」「グループホーム」「シェアハウス」なども入るかもしれない。ただ、「親は子を選べない」というように制度としてのもので、本人の自由意思が通じない一面もある。法的な制度としては、養子縁組制度があり、これは赤の他人でも家族になれるし、遺産相続や扶養義務など権利義務を負わされる。この映画の疑似家族は、本人達の自由意思で生き残りを夢見た、つかの間の幻想的家族の結末である。

 

いたけない子供や「店の商品は誰のものでもない」という荒唐無稽な理屈で万引きをする大人の行為は、常軌を失している。映画はそんな常軌を失している人間を描いている。だが、そんな社会悪を肯定している訳ではない。ただ現実に万引き行為は、日常茶飯事に存在する。反面教師として描いた意味合いもある。多分、それは人間の孤独を浮き上がらせるための手段として常軌を失している行為を取上げて見せているのだと思う。監督が述べたかったのは、まさに人間の孤独と人との絆をどうしても必要とする人たちの幻想を見せたかったのかもしれない。

GALLERY
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タイトル                 空腹のゆりを連れてくる

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翔太はゆりと菓子とシャンプーを万引き  柴田家の一員となるゆり

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テレビがゆりの行方不明を報じた      初枝は前夫の後妻の子から慰謝料を貰う

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和気藹々の柴田家            家族で海水浴へ

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初枝が死んだので庭に埋める          翔太が万引きで逃げ負傷する

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警察や児相の調べで柴田家の様子がバレ、ゆりも翔太も調べられる

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亜紀は治も信代も前科者だと聞く      死体遺棄は一人でやったと信代

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ゆりは親元に戻る             信代に面会する治と翔太

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治のアパートに行く翔太         翔太は養護施設に戻り、お別れする