ギャラさん映画散歩

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アリスのままで(リチャード・グラツァー他監督2015年作品)

     「なくす技を覚えるのは簡単。多くのモノが失われるのは                           災いではない」

       (「アリスのままで」で引用の詩人エリザベス・ビショップの言葉 )

あらすじ

コロンビア大学言語学教授のアリス・ハウランド(ジュリアン・ムーア)は、UCLAに招かれて講演を行う。講演中ふと言葉に詰まった。冗談として切り抜けたが気になる。また、大学構内をジョギングしていて、ふと道に迷ってしまう。

 

そんな彼女は、夫ジョン(アレック・ボールドウィン)と暮らしていて50歳になった。三人の子供がいて、別居している。娘リディア(クリスティン・スチュアート)は、劇団に所属してるが、自分の人生を生きていると満足している。アナ(ケイト・ボスアース)は、法律を学んでいる。トム(ハンター・パリッシュ)は医学を学んでいる。

 

物忘れが気になり、長老派教会病院の神経科医師に診て貰った。問診の中で近時記憶障害の傾向を指摘され、次回MRI検査を受けるので、家族を同行してほしいと医師は言う。アリスは夫に同行してもらうことは気が進まないので、一人で再診を受けた。MRIは正常だが、若年アルツハイマー病らしいので次回は必ず家族と来るようにと医師は念を押した。

 

そのため、アリスはジョンに打ち明けた。ジョンは信じなかったが、アリスは「人生を捧げて来たものが何もかも消え壊れる」と号泣した。二人で神経科医師と面談する。「アミロイド値が高い。現在の症状が裏付けている」と遺伝子検査を勧めた。遺伝子検査の結果は家族性のもので子供達にも100%遺伝すると言う。そこで子供達が来たときにアリスはそのことを告げる。「君たちの意思で検査を受けてくれ」とジョンは言った。

 

アナは陽性でトムは陰性。リディアは拒否をした。アナは人工授精だが出産を望んだ。大学でのアリスの講義に学生たちに不満の声が聞こえ始めたため、学部長にそのことを伝えた。そんなアリスは、パソコンに質問に答えられなくなったら次の段階に進むことを入力し、「蝶」のフォルダーを開くことにした。

 

アリスはジョンに「私が私でいられる最後の夏」と言い30年前のギリシャ旅行を懐かしむ。その後は子育てと仕事に貪欲であっという間だったと回顧する。トムやアナが訪ねて来た。翌日、リディアが出演する劇場へみんなで見に行く。終演後、みんなはリディアを褒め称えた。一瞬、アリスはリディアを他人と勘違いして、アナから窘められる。

 

再診に二人で行く。進行のスペースは遅れる者もいるので希望を持てと医師は言う。そんな中、アリスは認知症介護者の会合で講演を頼まれていた。3日かけて原稿を作り上げ、家族や医師も参加して講演を行った。詩人ビショップの言葉を引用した。「なくす技を覚えるのは簡単。多くのものが失われるのは災いではない。私は日々、なくす技を修得している。しかし、まだ生きている。私は苦しんでいない。戦っている。過っての自分であろうと。」

参加者は全員拍手をして講演を称賛した。

 

ジョンはミネソタの病院に自分の研究チームが招聘された為行く決心をした。アリスは引っ越しを嫌がった。アリスの物忘れは一層進んだ。そんな中、アナが双子を出産した。次第にアリスは自問自答に答えられなくなり、極限状態になった。最後の手段は、服薬自殺だったが、介護士が戻って来たため錠剤をばら撒いて失敗する。結局、リディアが家に戻りアリスの世話をすることとなった。リディアはアリスの言動をすべて受容してやったためアリスは平穏に過ごすことが出来た。

 

感想など

主人公の50歳の大学教授は言葉の忘れ、道の迷い、物忘れなどが気になり、神経科の診断を受ける。医師から年齢の割に「アミロイド値が高い」と若年アルツハイマー病と診断をされる。さらに家族性のもので、子供等に遺伝する可能性を指摘される。

 

家族も青天の霹靂で、動揺するがやがて冷静に対応すようになる。「私が段々と私でなくなる」という不安。子供等も遺伝すると聞き、検査で陽性となった娘、検査拒否の娘、陰性だった息子、それぞれが相当なショックを受ける。しかし、家族はアリスの病状を受容し、共生しようとお互いが、アリスの病気について理解を示していく。

 

彼女が言う「自分が自分で無くなる」という喪失感は人生の場でいろいろな場面で遭遇するものだ。交通事故や自然災害、ガンや認知症など病気や障害、高齢による衰弱など精神的にあるいは肉体的に、徐々にあるいは青天霹靂にその人に降りかかってくる。アリスは「むしろガンの方がよかった」と嘆くが、ガンの人から見れば「認知症の方がよかった」嘆くものになるかもしれない。

 

家族の対応はよかった。夫はアリスの症状を理解し、受容した。アリスの話をよく聞いた。逆らわず受容と共感の態度で接した。娘も日記を盗み見され一度は腹を立てたものの、後になって謝って和解した。大学教授であるアリスだから見識があり、人格が優れていると言うことではない。大学教授の夫だから子供だから理解が出来るというものでもないだろう。そこにあるのは人間としての在り方の問題である。

 

アリスは、まだ意識があるうちにパソコンの中に自問自答が出来なくなったときに自分のとるべき行動を入力して置いた。つまり極限状態になった時、服薬自殺をすることだったのだが、訪問介護士が帰って来て、服薬自殺は失敗に終わる。認知症ですべてを失ったようだが、永遠に無くなるモノはないという考えを説いて映画は終わる。

 

ジュリアン・ムーアは、素晴らしい演技だった。方向感覚をなくし、モノを失くし、眠りを失くし、記憶を失くしていく若年認知症として、徐々に身も心も壊れて行く過程を痛々しく演じて見せてくれた。そんな過程を見ていると自分が老いて行く過程と重なるものを感じてしまう。一方、詩人ビショップの「多くのものが失われるのは、災いではない」の言葉が胸に突き刺ささり、「私は苦しんではいない。世界の一部であろうと今の瞬間を生きている」という戦う姿勢も持とうと足掻く。

 

GALLERY

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ジョギングで一瞬迷子になるアリス  子ども達のアン・リディア・トム

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若年性認知症と診断される      ジョンと共に結果を聞く

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アンと夫 トムにアルツハイマー病を告白する

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講義で生徒から不満がでる      遺伝性なので子ども達も検査

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パソコンに将来の行動を入力する   家では認知症が進む

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娘に大学に戻るよう勧める      家族はアリスの行動を受容する

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再診              認知症介護の会合で講演するアリス

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ジョンはミネソタに行きたいと言う  アナの出産

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アリスは自殺を失敗         リディアが家に戻った

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アリスの介護をするリディア      タイトル